2018年7月30日 中野サンプラザホール 1階2列31番
2018年7月31日、16年と4ヶ月勤務した会社を辞めた。翌日からは新たな勤務先に出社することになる。
1日戻って、2018年7月30日 、山本彩が中野サンプラザでのNMB48コンサート中にNMB48からの卒業を発表した。
その日、僕は中野サンプラザホールの1階2列31番の席に居た。中野サンプラザは列の表記が無い最前列があるので、僕は実質6列目に居た。
彼女が何か話した始めた瞬間、その場に居た全員が卒業発表だと感づいた。彼女が卒業を発表すると、1人のファンが「嘘だと言ってくれー」と叫んだ(僕はその時は何を叫んだかは聞き取れなかった)
彼女は「こんな嘘はつきませんよ」と少し苛ついた(僕にはそう見えた)ように話を続けた。
その通りだ。このような嘘や冗談をこのような場で言うような人物では無い。叫んだファンも含めて皆わかっていることだった。
しかし、彼女が卒業を口にした瞬間、僕も何故か、何かの嘘、冗談や演出の一部だと思ってしまった。それ程までに、その日のNMBのコンサートが充実してたからだった。数多くNMBのコンサート見てきたが、この日ほど良かったコンサートを他には知らない。
彼女がいつ卒業を口にしてもおかしく無い状況だとわかっているはずなのに、あまりにもコンサートが楽しかったので、僕は完全に失念していたのだ。この日が、この時間がこの先も続くのだと思い込んで居たのだ。
僕は眼球を前に押し出すよう、瞬きする時間を一切取らずに彼女を見つめ、話を聞いた。だが、彼女が何を言っているのか、すぐに理解はできなかった。
もちろん何を話したのかはわかっているが、こんなに間近で話を聞いておきながら、彼女がどのようなことを語ったのかは、後からネットニュースで知ることとなったのだ。
恥ずかしながら、自分と彼女を重ねた。長い間属していた組織を抜けること。それを公に発言すること。発言したら、あとは戻ることはできない。おこがましくも、僕は彼女と同じ気持ちだったと思う。
「言葉に発してしまったら、もう戻ることはできない」
5月後半に僕が感じたことを、彼女は今感じているのだ。
眼球を前に押し出しすぎたせいで、コンタクトレンズはすっかり乾いてしまった。